プロ野球のFA制度を考える1~FA制度の意義と問題点~

プロ野球を語る

いよいよストーブリーグもおわり、2月1日からプロ野球各球団のキャンプが始まる。
このシーズンオフは巨人ファンにとって悲喜こもごもなオフだったと言える。丸や炭谷の入団、内海、長野の流出。2019シーズンを迎える前に、ジャビッ党としてはシーズンオフの総括として、FA制度の問題点を指摘し、新FA制度の私案を提案したいと思う。

まず今回はFA制度の意義とその問題点を述べていきたい。

FA制度の意義…選手の移籍の自由を認める上でなくせない制度

まずは、そもそものFA制度の意義について考えてみよう。
FA制度は、いずれの球団とも選手契約を締結できる権利を取得・行使できる制度で、選手の移籍の自由、大げさに言えば憲法上の「職業選択の自由」を補償する制度だ。

現在、日本のプロ野球制度はドラフト会議を経て入団するシステムになっている。かつては逆指名・自由獲得枠などと呼ばれ、有力選手に限っては希望球団に入団できる制度もあったが、今は原則として選手に球団選択の権利はない。

入団時に選手に球団選択ができないのだから、入団後、球団に貢献した選手には自由に移籍できる権利を与えようというのがFA制度の趣旨だ。

1993年から始まったFA制度は、権利取得の年数や元球団への補償ルールなどの変更はあるものの、毎年この制度を使って移籍する選手が出ており、選手の権利を考えるうえで、必要不可欠な制度であると言えるだろう。

現行のFA制度が抱える4つの大きな問題

問題点1:年俸の高騰・複数年契約が乱発される事態に

FA宣言した選手がよく使う「他球団の評価も聞いてみたい」というお決まりの台詞がある。この「評価」というのはすなわち年俸=お金のことであり、より高い報酬を出してくれる球団に移籍したいというのは、プロのスポーツ選手としては当然の考えだ。

メジャーリーグでも問題になっているが、有力選手が自由に移籍できるならば、当然、獲得のためには、より高い評価=高年俸を支払う必要があり、球団によるマネーゲームが過熱する。新入団する選手に支払う年俸もそうだが、元からいる有力選手との年俸バランスも重要だ。新しい選手ばかり優遇すれば、元の選手がそれこそ出て行ってしまいかねない。だから、元の選手にも同程度の待遇を用意することになる。すると全選手の年俸が相対的に上がっていき、球団経営を圧迫する。

この年俸高騰を抑えるために、日本のFA制度では、移籍する選手は年俸の現状維持が原則となっている。
しかし、複数年契約や出来高払い(インセンティブ)を用意することで、実質的に高額年俸を支払うことが可能だ。また、特別な事情をコミッショナーに文書で提出して、認められれば、現状維持よりも高額の年俸で契約することも可能だ。

身体が資本のプロスポーツ選手は、故障などによっていつ仕事ができなくなるかわからない。だから稼げるときに稼いでおくというマインドになる。そして、翌年、翌翌年と複数年契約による身分の保証は何よりの安心感になる。FAの移籍交渉では、年俸は名目上は現状維持が上限だから、出来高や翌年の年俸を高額に設定することで、その選手への評価や誠意を示すことになるわけだ。

また、日本のFA制度には宣言残留というものがある。なぜ、宣言して残留するのか? FA制度では権利を行使した場合、新たに契約金を得ることができる。移籍した場合は年俸の半額が上限(つまり移籍初年度は契約金と年俸を合わせると上限が年俸の1.5倍ということになる)だが、残留の場合、再契約金の上限はない。

契約更改で、FA移籍をちらつかせて宣言残留をすることによって、高額の再契約金を獲得したり、複数年契約を獲得したりすることができるというわけだ。

このように現状のFA制度では、年俸高騰を抑えるシステムは有名無実化しており、実際に年俸は年々高騰していっている。ジャイアンツは資金力が豊富だと言われているが、親会社は成長産業とはいえない新聞社だ。このまま年俸上昇が続いていけば早晩、首が回らなくなるということもあるだろう。

個人的には、FA制度による複数年契約の乱発が問題だと思っている。複数年契約について述べると話が横道にそれてしまうので、また別の機会に書こうと思う。

問題2:FA制度は戦力の均衡化と相反する制度

ドラフト制度が導入される以前、プロ野球は自由獲得の時代だった。球団と選手が合意すれば、選手は自由意志で入団する球団を選ぶことができた。立教大学の長嶋茂雄が、入団直前になって南海ホークスを蹴って読売ジャイアンツと契約したのは有名な話だ。

各球団の戦力の均衡化を図るために1965年の11月よりドラフト制度が始まる。くしくもこの年優勝した巨人が9年連続日本一(いわゆるV9)を果たし、ドラフト初年度のドラフト1位堀内恒夫がV9を支えたエースだったというのは皮肉な話だが、ドラフト制度になって戦力がある程度均衡化していったという側面はあるだろう(ドラフト制度についても機会があればジャビッ党の見解を述べていきたいと思う)。

ドラフト制度から遅れることおよそ30年。FA制度の出現は各球団の戦力バランスを崩しかねないものだったと言える。まだプロで経験のない未知数の新人を獲得するドラフト制度に対し、経験・実績のある有力選手の移籍制度だ。

仮に1球団が各球団の主力を1人ずつ引き抜いていったら、オールスターのようなチームができあがってしまう。そのため、日本のFA制度には他球団からの獲得人数の上限が定められている(2~5人・FA宣言した選手の数による、Cランク選手は除く)。

例えば、ジャイアンツに入団したと考えているFA権を持ったAランク・Bランク選手が3人としても、FA宣言選手が20名以下だった場合、ジャイアンツは2人までしか獲得できない。となれば、1人はFA宣言を躊躇してしまうかもしれない。

また、移籍元に対する補償制度(金銭補償・人的補償)を設けることで、移籍元球団は流出した戦力をある程度(場合によっては流出以上に)カバーできる。

戦力均衡化を意識するあまり、FA制度は補償や獲得人数などが制限されており、真に自由な制度と言えなくなってしまっているのである。選手の移籍権利をより自由化すれば戦力の均衡化は大きく崩れるし、均衡化を考えれば自由に足枷ができる。FA制度は結構やっかいなのだ。

問題3:人的補償制度による対象選手の移籍の自由の侵害と日本文化独特のFA宣言への躊躇

選手の移籍の自由と相反する戦力の均衡化。FA制度は、移籍元球団の戦力減に対する補償制度を設けている。金銭補償と人的補償だ。

特に今回の内海・長野の流出に代表されるように、近年、人的補償問題がクローズアップされている。「人的補償が嫌ならばFAで選手を獲得しなければいい」という人もいるだろう。

実際に人的補償や金銭補償が嫌で、FA選手の獲得を躊躇する球団もあるかもしれない

けれども、せっかく選手が移籍の権利を獲得したのに、どの球団も獲得の手を上げなければ、移籍の自由という権利が有名無実化してしまう。

また、人的補償で移籍させられる選手の権利というのもある。
プロ野球にはトレードという選手の意志と関係なく、チームを移籍させられる制度がある。それと同じと考えてしまえばそれまでだけれど、トレードの場合、基本的にお互いに移籍の自由がない。しかしFA制度に伴う人的補償の場合、片方が自分の自由意志で球団を決められるのに、もう一人は自分の意志は考慮されない。あまりにも理不尽ではないだろうか?

そういう意味では、江川事件の時にコミッショナーの強い要望により実現した江川-小林繁のトレードにも似ている。江川事件の時の江川ほどではないにしても、FAで入団した選手は、人的補償でそのチームを去った選手に対して似たような気持ちをもってしまうのではないだろうか?

内海が炭谷に、長野が丸に「ルールだから仕方ない、君が悪いわけではない」といった旨の言葉を電話などで伝えているようだが、そんな言葉をかけさせなければいけないというのはFA制度の大きな欠点であると言えよう。

「人的補償が発生するかもしれない」そう考えてFA権を行使しない選手もいるかもしれない。それも選手の移籍の自由を阻害するものだろう。

日本が長く終身雇用の雇用体系だった影響もあるだろう。球団ファンが「球団がここまで育てた」という意識も強いのかもしれない。所有者意識とでもいうのだろうか? 日本のプロ野球ファンは選手の移籍に関してはネガティブに考える傾向が強い。FAで移籍した選手に対し、「裏切者」といった罵声を浴びせる人もいる。

アメリカのように、今年応援していたチームのスタメンが、翌年ごっそり入れ替わってしまったら、愛着も沸かないというのは分かるけれども。ファンももう少し寛容になるべきだろう。

いずれにしても、「FA移籍が悪」といった意識を選手に持たせるべきではないし、そういった制度づくりが必要だと思う。

問題4:海外移籍と国内移籍の制度の違い

FA制度は国内移籍と、海外移籍でルールがまるで違う。
まず、権利取得年数が違う。国内FA権取得は高卒で累計8シーズン、大卒・社会人で累計7シーズンの1軍登録が必要で、海外FA権取得までは9シーズンが必要だ(1シーズンは145日)。

そして、海外FA権を行使して移籍した場合、契約金や年俸の上限はない。また、海外の球団は移籍元球団に人的・金銭的補償を行う必要もない。

選手にとっては、海外FA権取得までの期間が長いというデメリットがり、球団にとってFAで海外チームに移籍されると、単純に戦力ダウンとなってしまい、デメリットが大きい。このため、FAによる海外移籍を嫌う球団は、ポスティングシステムによる海外移籍を認めている。

僕は個人的には球団のかけがえのない財産である選手を金銭で売り飛ばしてしまうようなポスティングシステムは反対なのだけれども、12球団を見渡すと、ポスティングシステムを認めていない球団の方が少ない(ジャイアンツは認めていない)。

そのため、所属球団によって海外へ移籍できる時期が替わってしまい、不公平感が生じている。かといって、国内移籍と同じ条件を海外の球団に求めることはできない。

海外FA権についてポスティングシステムを含めた、制度の見直しが必要だろう。

このように、現状のFA制度は多くの問題を抱えている。
これらの問題をすべて解決することは不可能かもしれないが、少なくとも今の制度よりはマシな制度を次回、私案として提案してみたと思う。

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1975年、ジャイアンツの歴史上、唯一の最下位だった年に生まれる。
同学年の選手は高橋由伸、上原浩治、高橋尚成、井端弘和、岡島秀樹など。

生まれてからの最初の記憶が、祖父の家のテレビで観た王さんの756号という巨人ファン。1989年の近鉄との日本シリーズ、3連敗からの逆転日本一を疑わず、それが実現したことから、本格的にジャイアンツにのめり込む。

高校時代から東京ドームに通い始め、1994年には東京ドームでアルバイトをし、日本シリーズでは長嶋茂雄監督の胴上げを生で観る

大学時代に某スポーツ解析ソフトウェア会社にアルバイトとして働き始め、そのまま入職。野球とラグビーのデータ入力と解析を担当した。

2008年には年間およそ50試合ほど、東京ドーム、神宮、横浜などで観戦したが、仕事の都合上、現在は日テレG+での観戦やネット観戦が多い。

夢は東京ドームの年間シートを購入して、毎試合生観戦すること。

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コメント

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